漫画家アシスタント物語 番外編 「それでも、さがみゆき先生は怒らなかった」 その7 最終回
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漫画家アシスタント物語 番外編
「それでも、さがみゆき先生は怒らなかった」
その7 最終回
この写真は、私が1975年頃に勤めていたかわぐちかいじ先生の仕事場で他のアシスタントたちと一緒に撮影したものです。中央でメガネをかけた長髪男が私です。
中途半端な仕事で怪奇漫画家さがみゆき先生に迷惑をかけ、自分自身でも未熟な画力にすっかり自信を無くしていた時でした・・・・・・・(1975年頃)
毎日、皿洗いのバイトやビル掃除のバイトをしながらフラフラしている私に、アシスタントになる事を勧めてくれる人がいました。
その人は、学生時代から同人誌でお付き合いのあった先輩なのですが、かわぐちかいじ先生(当時はまだ原作付きの仕事が多かったです)のアシスタントをやっていました。
その先輩が、かわぐち先生のアシスタントを辞めるので私にその後に入ってはどうかという話をしてくれたのです。
劇画の背景なんてやれるかどうか分からないし、「かわぐちかいじ」なんて名前も知らないし・・・・・・・・・当時(1975年前後)は、まだかわぐち先生は有名ではありませんでしたから。
不安だった私に先輩は・・・・・・・・
「僕みたいな下手クソでも仕事が務まったんだから、きっと大丈夫だよ!」
「でも・・・・・劇画のアシスタントはキツイって聞きますけど・・・・」
「大丈夫だよ、すぐに慣れるから!」
・・・・・と励ましてくれたので、恐る恐る・・・・・・・・かわぐち先生の面接を受けに出かけました。
スクリーントーンの処理法や、劇画風の背景画のサンプルなど、夢中で試作した作品を見てもらい、なんとか雇ってもらえる事になったのですが・・・・・・・・・
ここの仕事場では、意地悪な先輩アシスタントがいて、毎日、イヤミを言われ続けた事が原因になって1年足らずで辞めてしまいました。
年の暮れになって、なんのあてもなく仕事を辞めてしまったのですから、生活は大変でした・・・・・・・・・・
すっかり文無しだし、下宿代の支払いは遅れるし・・・・・・・・・そこで、思い出したのが・・・・・・・・・・あの優しかったさがみゆき先生でした。
私が勤めた劇画アシスタントの仕事によって、すっかり劇画背景の技術をマスターしていたので、その技術を利用しようと思ったわけです。
・・・・・と言っても、もう一度アシスタントの仕事をやらせてもらうほど私はズ~ズ~しくはありませんので・・・・・・・
さが先生が欲しがるような住宅街やビル街などの背景画を何枚か描いて、その絵を買ってもらおうと思ったのです。
池袋の西武デパートの上にあったレストランでさが先生と待ち合わせ、何枚かの絵を見てもらいました・・・・・・・・・
私がさが先生の元から去った経緯はともかく、ご無沙汰していた事を詫びつつ、かわぐち先生の所で仕事をしていた話などをしました。
「絵ェ巧くなったわァ~」
さが先生は、いつもの京都弁のなまりのある優しい言葉で絵を褒めてくれました・・・・・・・・
そして、期待していた通りに気持ちよく私の絵を買ってくれました。
5,6枚の絵を3万円で引き取ってくれましたが、この3万円という金額は当時の私にとっては、半月分の生活費になりましたので随分と救われました。
さが先生にとってその絵を原稿に張り付けて使ってしまえば、原稿料と差し引きで、まったく利益が出ませんので、コピーして何度も背景に張り付ける事でガッチリ利益を出したのではないかと思います。
「困った事あったら、また連絡してねェ」
やっぱり優しい笑顔で・・・・・・・そう言って下さいました。
その日、さが先生と面会したのを最後に40年以上お会いしていません。
さが先生のアシスタントをしていた時に、時々、先生のマンションへ仕上げた原稿を届けたのですが、いつも、近所の料理屋さんから定食を取って下さった事を今でも忘れる事が出来ません。
そんな時、よく別れた旦那さんの事や、親類に預けてある娘さんの事をポツリポツリと話してくれました。
旦那さんの新興宗教へののめり込みには随分と苦労させられたとか、娘さんと一緒に暮らせないのが寂しいとか・・・・・・・
その娘さんも今ではきっと中年のおばさんかお母さんになっているでしょう・・・・・・・・・大人になってからは、先生と同じ漫画家になったそうです。
・・・・・・アシスタントの私が漫画家になれず、当時はまだ子供だった娘さんの方が漫画家になってしまうんですから、世の中皮肉なものです・・・・・・・・。(娘さんが現在何をしているかは分かりません)
それはともかく・・・・・・・
私にとっては貴重なアシスタント初体験でした・・・・・・・・昔の映画俳優の京マチ子にちょっと似ているさが先生の優しかった事・・・・・・・これから先も、忘れる事はないと思います。
最後に・・・・・・
私にとっては・・・・・・・・実の姉の様な印象の残るさが先生について、書かせてもらう機会を与えて下さったレトロマガジン様に感謝しつつ終わりたいと思います。
読者の皆様・・・・・・・ここまでお付き合い下さって、本当にありがとうございました。
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著者紹介
イエス小池 : 1955年(昭和30年)生まれ、高卒。74年、19歳で最初のアシスタントさがみゆきに師事。20歳でかわぐちかいじ、22歳で村野守美、78年、23歳から現在までジョージ秋山に師事。87年「ヤングジャンプ青年漫画大賞」で準入選、同作品でデビュー。96年単行本「サイコホスピダー」出版。08年ブログ書籍「漫画家アシスタント物語」出版。
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[…] 漫画家アシスタント物語 番外編 「それでも、さがみゆき先生は怒らなかった」 その7 最終回 へ続く。 […]